5者のコラム 「役者」Vol.131

高校生の模擬裁判

前田司郎「口から入って尻から出るならば、口から出る言葉は」(晶文社)はこう述べます。

僕は中学高校と男子校で演劇部もなかったので、みんながうらやましい。甲子園の試合の方がプロ野球の試合より面白いように、高校演劇はプロの演劇より面白い。プロには技術があるが、次の講演もある。みんなは負けたら終わりだもんね。そういう捨て身のエネルギーは観客にも伝わるもので、演劇に関しては上手・下手よりも大事なものがある。(73頁)

筑後地区は高校演劇が盛んなところで、平成19年以降、20回(年2回)もの発表会が開催されています。安元知之医師が開始した農民演劇「嫩葉会」の遺産とも言えます。子供が地元久留米の高校に行っていた頃、私は高校演劇をかなり観劇していました(子供が演劇部員だったという訳ではありません)。もちろん下手な作品もあります。正直、演劇として成り立っていない舞台すらあります。しかしながら中には「プロの演劇よりも面白い」優れた作品があるのです。
 私は弁護士会の「法教育委員会」に属していないので詳しくないのですが、高校生の模擬裁判選手権における優秀な高校生の弁論はプロ顔負けのものであるようです。想像するに、お題となったその事案に関しては、高校生の訴訟活動はプロの訴訟行為よりも面白いんじゃないかと思います。プロは沢山の事案を同時並行的にさばいているので1つの事案に100%のエネルギーを集中することは普通出来ません。現在の日本の民事訴訟は書面による弁論が中心なので口頭の弁論が重視されていません。これに対し高校生はおそらく100%のエネルギーを集中し、観客(傍聴人)を引きつける魅力的な弁論にするのでしょう。私はプロですけど「傍聴席からみて面白い訴訟行為」はしていません。ただし各々の事案に関しては「負けたら終わり」というくらいの気概で遂行しているつもりです。