依頼者のためという言い訳
江戸時代、商家は身分的に低く見られていましたが富を蓄えながら教養を磨く者も多くいました。商家では「家訓」が受け継がれました。抽象的な理念ではなく実践的知恵として仕事に(広く言えば人生に)生かされていたのです。山本眞功「商家の家訓」(青春出版社)に以下の家訓が紹介されています。「主人のためとて他人へ非道をする人は、また我が身のためとて主人へ非道をすべし。」(八幡商人・伴膏蹊)。他人へ非道をする奉公人は何らかの正当化(言い訳)を考えていることが普通です。特に注意しなければならないのは「主人のためである」という言い訳です。このような者は少なからず見受けられます。が、かような言い訳を許しておくとこのような者はいつのまにか「自分の利益のために」非道をするようになるということです。したがって商家の主人は奉公人の「主人のためである」という言い訳を絶対に認めてはならない。
他人へ犯罪をする者が正当化を考えていることがあります。注意しなければならないのは「正義のためである」「国家のためである」という言い訳です。しかし、かような言い訳を許しておくと、このような者は「自分の利益のために」犯罪をするようになるのです。ゆえに法律家は「国家のためである」「正義のためである」という言い訳を安易に認めてはならない(正当防衛・職務行為等でない限り)。弁護士業務に即して言えばこうなります。職務基本規定に反する行為を行う弁護士は何らかの正当化を考えていることがあります。注意しなければならないのは「依頼者のためである」という言い訳です。しかし、かような言い訳を許しておくとこのような者はいつのまにか「自分の利益のために」弁護士倫理に反する行動をするようになる可能性があるのです。ゆえに弁護士会は「依頼者のためである」という言い訳を安易に認めてはなりません。