コトバと権力の関係
NHK「100分で名著」テキストが好きで良く買っています。別冊「メディアと私たち」の高橋源一郎「1984年・オーウェル」を取り上げます。 「1984年」は世界で一番有名なディストピア小説。未来世界に関する画期的考察を産み出しています。その中心概念に「NewSpeak」があります。作者はこの点について尋常ならざるエネルギーを注ぎ込んでおり、その思考集成を付録( ニュースピークの諸原理)として挙げる程のこだわりを見せています。ニュースピークとは権力が認める思考を外れた「異端の思考」を原理的に不可能とする人間管理技術です。簡単に説明すれば、それは「コトバの意味を徹底的に限定する」ことです。1つ1つの単語から、人間が深く自由にモノを考えたり権力に抵抗する可能性のある意味を全部削除していく。それが完成すると人間はそもそも「自由」や「民主政治」という思考が全く出来なくなるのです。この小説は特定の国やイデオロギーに向けて書かれた作品ではありません。全ての国や時代に向けて「権力とコトバの関係」という人類の歴史を貫く最も重要な命題を考察するために書かれた小説なのです。
ヨハネ福音書の昔から「初めにコトバがあった・コトバは神とともにあった・コトバは神であった」。言葉の意味を完全にコントロールしようとする輩は「自分が神になろうという悪魔」に他なりません。私はこのコラムの中でメタファーを多用しています。メタファーとは既に認められているコトバの用例を拡張し、別の文脈で私用することによって、過去とは違った意味を産み出してゆく言語創造の技術です。ニュースピークと反対の技術です。自分の前に既に存在するコトバを使って従前存在したのとは違う用法のコトバの意味を未来に向け新たに産み出してゆくこと。人間が自由であることの要件の1つは「コトバを自由に使えること」なのです。