5者のコラム 「易者」Vol.143

脱魔術化と再魔術化

法律実務を生業としている私が「易者」の項目を立て占いや宗教について論考を書いていることに「奇異な感じ」を受けている方も相当数いるでしょう。
 小川仁志「哲学の最新キーワードを読む」(講談社現代新書)に次の記述があります。

マックス・ウェーバーは、キリスト教支配が終焉した後の近代の状況を「脱魔術化」という言葉によって表現した。宗教の魔法が解け世俗化が進むだろうという予測である。実際、少なくともヨーロッパ社会においては近代以降、世俗化の方向に向かったように見えた。ところが次第に明らかになっていったのはそれとは全く逆の事態が生じているという現実であった。グローバル化が進展する今、むしろ「再魔術化」と呼ぶべき事態が生じている。(略)世の中が不安定になると当然人々の不安は増大する。その中で宗教に依存する人たちが増えるのはある種必然だ。世界の合理化は必ずしも世の中の安定をもたらさなかったのである。それどころか21世紀に入りグローバル化という名の混乱がその不安定化に拍車を掛けている。

科学は「合理性」を旗印にして人間を理解してきました。近代法も「脱魔術化」の文脈で体系化されてきました。この近代法を基礎にして現代の法律実務は構築されており、この意味での法律学が「再魔術化」されることはあり得ないと私も考えます。が、法律実務の前提となる人間の理解に関して言えば「脱魔術化」の力が弱くなっている気がします。近代を彩ってきた未来への希望が色あせ不安が増大した21世紀において、実際に生じる事件とこれを産み出す人間のあり方は「再魔術化」の様相を見せ始めています。弁護士が仕事の上で占いや宗教を論じることは普通ありませんが、社会や人間を論じるにあたって占いや宗教を理解しておくことは極めて重要なことだと思います。