5者のコラム 「芸者」Vol.146

「保守的」な人々(反体制の野心?)

岩下尚史「芸者論」(雄山閣)に以下の記述があります(若干省略)。

吉原は元和3(1617)年に江戸唯一の色里として官許を得ています。時の吉原の経営者が幕府に当てた文には封建社会をおびやかすことのないよう幕府に対する謀反人を検挙することが明記されており、治安維持に協力する見返りとしての官許であったことが分かります。「吉原と芝居は悪所であった」という近年の学者の言い回しから、この両者が為政者である徳川幕府に対して反抗的で反体制の気概があったかのように想像する向きもあるようですが、それは買い被りというものです。廓者も役者も、権力に対しては非常に臆病で、自分たちの伝統的な信仰生活を頑な迄に守ろうとする保守的な人々であったことは疑いようもありません。

弁護士は、裁判官・検察官と同様、法律家としての国家資格を得て社会生活を営んでいる者の集まりです。司法改革後も、法律事務の独占を規定する弁護士法72条は撤廃されていません。憲法上、弁護人による「刑事」の弁護活動が適正な刑罰権の行使のため不可欠と評価されているので「民事」の法律事務独占はその見返り、という見方をする人がいるかもしれません。弁護士が政府(国家権力)に対し反抗的で反体制の野心があるかのように想像する人もいるようですが、それは買い被りというものです。多くの弁護士が賛同するであろう「立憲主義」や「法の支配」という思想は、ある意味「保守的」な考え方だからです。左派(市民革命を指向)や右派(押付け憲法の打破を主張)の方が「革新的」な思想(反体制)です。廓者や役者が自分たちの伝統的信仰生活を頑な迄に守ろうとする保守的な人々であったのと同様に、弁護士は敗戦後に(占領軍アメリカの影響下に)策定された憲法の価値観を尊重している集団です。第2次大戦における夥しい<死者の霊>におびえながら戦争放棄を誓った戦後日本人の「信仰生活」を頑なに守ろうとしている者の集まりなのです。