若手の努力・ベテランの努力
「クローズアップ現代」(NHK)での羽生九段の発言。
Q:年齢とともに磨いてこられたのが大局観。これはどういう境地なのか?羽生:大局観は簡単に言うと、大ざっぱにざっくり見るっていうことで、大体の方向性を決めるとか今までの総括を簡単にするとか、非常にアバウトに大ざっぱにその状況を見る、判断するということです。Q:手を読むとか、そういった能力は若い頃の方が優れているのでしょうか?羽生:そうですね。なので100手読んで正しい手を選ぶよりも、10手とか5手とか、その短い手数で正しい手を選べるという、そういう方向性に変わっていく。だから「足し算で記憶をして・計算をして足し算をする」のではなくて「余分なものをそぎ落としていって・引き算の思考の中で質を上げる」という作業を心がけています。
弁護士業務の大局観も「事案を広い見地から大ざっぱにざっくり見る」ということ。しかし「言うは優しく行うは難しい」。これを短時間に誤りなく行うためには自分が解決した事案で確立した「経験則」をフル活用する必要があるのです。受任した段階で「事実関係をざっくり整理する」「大ざっぱに全体の状況を見る」「アバウトに大体の方向性を決める」。この初期方針を誤ると事後の紛争解決が困難になります。一般的に過去の判例や学説を頭で調べる力や現場を足で調べる力は若い頃のほうが優れています。したがって若い頃は「100手読んで正しい手を選ぶ」労力を厭いません。逆に言うと若い時にこの努力をしない弁護士は駄目です。しかしながら年齢を重ねると「5手とか・10手とか短い手数で正しい手を選ぶ」というそんな方向性に変わっていきます。過去の経験則に照らして余分なものを削ぎ落としていき「引き算の思考の中で質を上げる」作業が重要になっていきます。逆に言うとそのような努力をしないベテラン弁護士は駄目です。