人を否定的に見るクセ
岩松了氏は「あなたに似た人」(西日本新聞)でこう述べています。
演出家として映像と舞台の違いを聞かれることがある。こう答える「映像は山の頂を見る作業・舞台は谷底を見る作業」。真意はこうだ。映像は最高の一瞬を採れればOK。舞台はいつもこれ以上悪くならないよう日々底上げをしている。そう、舞台には終わりが無い。今日は良くても、明日はダメになるかもしれないのが舞台だ。そしてこう付け加える「だから映像をやると人を肯定的に見るようになるし、舞台ばっかりやると人を否定的に見るクセが付く。
法律業務は完全に舞台型です。映画ではなく演劇に似ていると言って良いでしょう。以前、私はこう述べました。「演劇は効率が悪い。生の役者が少数の観客の前で1回限りの演技をする他ないからだ。演劇とは観客が見つめる一瞬のために全ての力を注ぐ贅沢な見せ物である。弁護士が演じる法律劇場は映画化することが絶対に出来ない。個々の事件が有する濃厚なアウラは抹消することが出来ないのだ。」(役者82)。そう。舞台はやり直しがききません。観客が見つめる一瞬のために全ての力を注ぐ贅沢な見せ物です。日によって出来・不出来があります。が観客にとってはその日の舞台が全て。ゆえに役者は少なくとも落第にならないような(60点以上の)舞台を作り上げなければならない。映画は最高(100点満点)の作品を目指すものだ。最高の一瞬を編集で繋ぐことが出来れば良い。失敗は編集でカバーできる。舞台は違う。弁護士だって全ての事件で100点を取れることは絶対に無い。出来の悪い舞台だってあるが客にとってはその舞台が全て。だから少なくとも落第にならないような舞台を作り上げなければならない。それゆえに舞台上の演技ばかりやっている弁護士は「人を否定的(悲観的)に見るクセ」が付いているのかもしれません。