他人の棘を受け流す技術
「燃えつき症候群」(金剛出版・昭和63年)は以下の構成です。第1章(対人専門職の受難の時代)第2章(調査にみる医師等の燃えつきの背景)第3章(中学校教師の燃えつき状態の心理社会的背景)第4章(対人専門職のメンタル・ヘルス対策)。このうち第1章は「増える医師の自殺」「燃えつきる新卒とベテランの看護婦」「激増する教師の心の病」という内容です。
監修者土井健郎先生は以下の点を指摘しておられます。
次の事実についてだけは識者の注意を喚起しておきたい。それは医師・看護婦・教員とも経験年数が少ない方が燃えつき症状や神経症的症状が顕著にみられるという奇妙な事実のことである。燃えつき症候群というと長年困難な仕事に従事したために起きるもののように想像するであろうし、実際、看護婦や教員の場合にはそういう結果も出ているのだが、一番意味深長な所見は、医師・看護婦・教員を問わず、勤務開始後5年から10年の比較的早い時期に多くの者がそのような症状を示していることなのである。
私は医者4で弁護士が原子からイオンへ成熟する過程を描きました。燃えつき症候群は原子状態の者に生じやすい。経験を積みイオン化した弁護士は他者の棘を受け流す技術を身に付けています。エネルギーを低下させ仕事外の領域に精力を向けるのも自分を守るための防衛機制です。これに対し原子状態の者は素直であるが故に他者の棘をまともに浴びてしまいます。ここにパッション(熱意)のあるこそ者がパッション(受難)の対象となる逆説が成立するのです。イオン化にはエネルギーを低下させるだけではダメです。自分の長所と短所を見抜き互いに補えあえる仲間を作る・受けた精神的ストレスを愚痴として吐きあえる先輩同僚を見いだす・業務と直結しない個の領域を開拓する。こういった工夫の積み重ねにより弁護士は「他者の棘を受け流す術」を身に付けていきます。