5者のコラム 「学者」Vol.17

大学と法曹の魅力が無くなること

学生時代、私はあまり講義に出ませんでした。教授も「講義は聞きたい者だけ聞けばよい。学生は自分が興味をもつテーマを勝手に勉強しなさい。」という雰囲気でした。これに対して近頃の大学の状況を佐伯啓思氏はこう描写しています(「学問の力」NTT出版)。

今の大学はあの時代に比べると大変窮屈になっています。管理主義的で、かつ商業主義が大学に大手を振って割り込んできています。大学はサーヴィス産業であると同時に学生を管理して、それなりの商品(労働力)として社会へ送り出す役割を期待されている中で、いかに学生に授業に出席させ、単位を取らせ就職させるかばかりに腐心し、学生は教師の授業を評価し、教師は自分の売る商品(授業)をいかに魅力的にみせるかに腐心することになります。大学が本来持っているある種のゆとりや余裕・多少世間からずれた滑稽さなどの魅力がなくなっています。と同時に、学問も研究もどんどんつまらなくなっていく。理系はいざ知らず少なくとも文系は間違いなくつまらなくなっています。授業など出なくてもいいから友達同士で議論したり一人で本を読んで何か考えたり、大学の外でいろいろ試行錯誤すればいいじゃないか、という余裕が今の大学にはなくなっているのです。(78頁)

同様に、昔の弁護士はあまり経済的な心配をせず大所高所の視点による弁護活動をしていました。弁護士のゆとりが経済的にペイしなくても人権擁護活動を行うための基盤になっていました。しかしながら現在の弁護士は「サーヴィス業」であることが強調され、法的成果を安価に社会へ供給することが求められています。自分の存在意義を見つめ直す余裕が無くなり、これから弁護士を目指そうとする有意の若者を心配させ志望者激減を招いています。法曹界に有意の若者が集まらなくなることが将来の日本社会にとりどれほど大変な損失なのか為政者には関心がないのでしょうね。