5者のコラム 「役者」Vol.44

若手とベテランの役割分担

 漫才における基本的な役割分担は「ボケ」と「突っ込み」です。1人が常識を離れた見地から「ボケ」をかまし、1人が常識的な見地から鋭く「突っ込む」というのが漫才の基本形です。私は役者28(09/6/24)で「判決に向かう場合にはスタニスラフスキー・システムに立脚する必要性があるが、和解の場面ではブレヒトの演劇理論に立脚する方が良い」と述べました。他方「この使い分けは極めて難しく、使い方を間違えると依頼者の誤解を生み、あるいは他弁護士の信用を失う可能性もある」とも述べました。2つの役割を1人で演じ分けるのは難しい技です。では実際の訴訟において弁護士はどうすべきでしょうか?最も簡明な答えは役割を2人で演じることです。スタニスラフスキー・システムは「突っ込む」立場です。その役割を大真面目に演じます。与えられた登場人物に感情移入して同化するのです。逆にブレヒトは「ボケ」ます。役割演技を少し冷めた見地から眺め、場合により役割そのものを否定するのが主眼になります。両者は別人が演じ分けた方が自然なのです。弁護士になって直ぐの若手にはスタニスラフスキー・システムが相応しいと言えます。与えられた役割を忠実に果たすことは理想の高い者に適した仕事だからです。これに対しベテラン弁護士にはブレヒトが相応しいと言えます。役割演技から少し距離を置いて大所高所の視点から事案を見ることが求められるからです。実際、ベテランと若手が組んで訴訟を遂行すると(事前に役割分担を決めたわけでもないのに)自然にこういう分担になります。「突っ込む」ためには鋭利な知性が必要です。原理から論理的に結論を導く精神が必要です。自分の役割に忠実な感性も求められます。これは若手の性質です。これに対して「ボケ」るためには役割演技を冷めた見地から眺める余裕が必要になります。場合によっては規範(役割)を否定できる強さ(面の皮の厚さ)も求められます。これらはベテランの性質です。ゆえに両者がペアを組むと良い解決が得られるようです。

芸者

前の記事

アメリカ弁護士の芸者化