5者のコラム 「5者」Vol.46

制度変更による金貸しのリセット

昔、サラ金問題は苦労の割に実入りの少ない分野でありました。が、今や過払金請求が儲かる業務の筆頭となり、他方でサラ金の倒産や廃業が続いています。水上宏明「金貸しの日本史」(新潮新書)に次の記述があります。日本の中世は、徳政令が必要となるほど金貸しがおおいに栄えた。しかし鎌倉から室町で活躍した金貸しに連続性はない。鎌倉幕府の崩壊から室町幕府の成立にかけては南北朝の時代をはさむ。この時期に鎌倉時代からの金貸しは一度リセットされたのである。南北朝の動乱は日本史上初めてともいえる規模で行われた。平安末期の源平の合戦では平氏が一方的に西に向かって滅亡への道をたどったが、この戦争はまさに日本全土にわたっての規模だった。このような戦乱が起きると、金貸しはまず壊滅する。明日死ぬかもしれない人にお金を貸してしまえば、返ってくる保証はないからである。これと同じようなことは戦国時代と第2次世界大戦のときにも起こっている。さらにあまりに大きな制度変更も金貸しをリセットする。明治維新のときには後で書く江戸時代からの両替屋・札差が消滅した。つまり金貸しは、南北朝の時代と戦国時代・それから明治維新・第2次世界大戦と4度にわたって生まれ変わっているのである。だから金貸しの老舗というのは聞いたことがない。>バブル崩壊後の「失われた10年」に多くの金融機関が消滅しました。証券会社や保険会社の破綻が目立ちましたが、特に日本の復興を担った国策会社(日本興業銀行・日本長期信用銀行)が消滅したことが衝撃的なことでした。今更ながら、あの時代は金融「戦争」なのだったと感じざるを得ません。判例変更により利息制限法違反の利息を収受できる要件が厳しく解釈されるようになったことはサラ金業者にとって「あまりに大きな制度変更」だったと言えるでしょう。こうやって「金貸しのリセット」は行われていくのでしょうね。

役者

前の記事

会田誠のすすめ
学者

次の記事

文明史的中国論