家族の病理
えーるピア久留米で演劇『エリアンの手記』(作山崎哲・劇団プロジェクトぴあ)を観劇。中野富士見中学校事件を基礎に書かれた戯曲です。実際の事件はこういうものです。男子生徒はパシリやカバン持ちを経て葬式ごっこをやらされていました。学校を休んだ翌日、自分の机には色紙と一輪挿しの花。色紙にはクラス全員から「お別れの言葉」が寄せられていました。担任の教師が生徒と一緒になって色紙を書いていました。この事件をふまえながら戯曲は焦点を家族に当てます。
劇は祖母が男子生徒の妹に宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の最後の場面(カンパネルラが川で溺れるくだり)を読み聞かせところから始まります。賢治と妹トシとの間柄を思わせる男子生徒と妹の関係が演じられます。男子生徒の家を教師やいじめっ子の母たちが入れ替わり立ち替わりやって来て自己正当化の言説を繰り返します。大人たちの話は相手との会話ではなく自問自答のモノローグへと変わっていきます。お父さんは仕事に行くフリをして実際には釣りに行っています(その釣り堀で担任とも遭っています)。お母さんはいじめっ子と母達に対して強い態度が取れず、紅茶とケーキをすすめます。お母さんは家庭の暖かさを演出すべく家族会議を開きたがっています。男子生徒は加害生徒の前では媚びへつらいの態度を見せつづけます。そういった「家族の病理」が繰り広げられながら「事件」が起こります。最後に祖母が妹に再び『銀河鉄道の夜』を読み聞かせて舞台は閉じられます。
弁護士が依頼を受けるのは「法律問題」です。弁護士が家族の病理に正面から取り組むことはありませんし求められてもいません。弁護士はカウンセラーでも精神科医でもないからです。しかしながら事件の背後に「家族の病理」が潜んでいるのかもしれないという潜在的な認識は弁護士業務を遂行する上で重要な意味を持つような気がいたします。