現在の日中間の関係
「ヤマアラシのジレンマ」という話を学生の頃に読んで妙に納得したことがあります(精神科医・小此木敬吾教授の本だったと記憶します)。「ある冬の日、2匹のヤマアラシは寒さをしのぐために体を寄せあって温めあおうとする。しかし体を寄せると各々のトゲが刺さって痛いのである。トゲを避けるためには距離を置く他はない。しかし、そうすると寒いのである。」
私は現在の日中韓の関係はヤマアラシのジレンマに近いと解釈しています。3国の経済はこの20年程で飛躍的に緊密化しました。各国の富裕層は貿易の伸展で儲かっています。彼らにナショナリステイックな感情はありません。他方各国で貧困層の苦境が拡大しています。緊密化したが故に各々のトゲが突き刺さり、政治的な困難(貧困層の不満のハケ口としてのナショナリズム)を発生させています。だからといって極端な保護主義に走れば3国とも経済関係がボロボロになるでしょう。政治家にも・官僚にも・知識人にも英知を振り絞って欲しいと思う所以です(それこそ彼らが解決すべき「仕事」なのですから)。売名や保身のためにナショナリズムを利用するなど極めて下品な行為だと私は思います。中国や韓国は「日本帝国主義打倒」を建国理念としています。政権の正統性が揺らぐと今でも「反日」(トゲ)をむき出しにしてきます。これに対し現代日本の「トゲ」とは何かと日本人は不思議に思うかもしれません。かの国の民衆にとっての日本のトゲとは「幻肢」(げんし)だと私は感じます。「幻肢」とは事故等で突然手足を失った被害者が無くなったはずの手足が痛むことに悩まされる現象です。軍国日本のトゲは68年前に消滅しました。しかし彼らの脳内に存在します。無くなったはずのトゲに(現実に)痛みを感じているのです。これを事実的基礎が無い「幻視」として軽く見てはいけないと私は考えます。かようなトゲがかつて存在したことを認めるとともに現在は存在しないように行動すべきです。かかる前提の上で彼らの不合理なトゲに対して認否・反論していくべきだと私は思います。「和解」のための「弁論」として。