心理と身体との関係性
マイケル・チェーホフ「演技者へ!」(晩成書房)の中に以下の記述があります。
人間の心理(こころ)と身体(からだ)は非常に密接な関係があり、お互いに絶え間なく影響しあっているということは既に知られている。筋肉が異常に発達した身体またはその反対に未発達な身体は心の動きを不活発にし、感情を鈍らせ、意志の力を弱めてしまい易い。たずさわっている職業が何であれ、その職業固有の習慣・ストレス・危険に常にさらされているため心理と身体のバランスが十二分に取れているということは非常に希なことである。我々俳優は創造性を舞台の上で表現する楽器としてこの身体を使わなければならないために心理と身体の完全な調和を目指して、たゆまない努力を続けなければならない。(14頁)
弁護士も固有の習慣・ストレス・危険に常にさらされています。そのため弁護士は心と身体のバランスが崩れやすい状態にあります。むしろ、両者のバランスが十二分に取れているということは非常に希なことであるとすら言えます。「言葉を武器にする弁護士は知力だけ意識すれば良いのでは?」という疑問を持つ人がいるかもしれませんが、そうではありません。弁護士にとって身体の状態は極めて重要です。知力だけ異常に発達したバランスの悪い身体は心の動きが不活発になり・感情が鈍り・意志の力を弱めてしまい易いのです。法律業務には身体感覚が必要な場面が多く生じます。嫌なことが起こりそうな予感・虫が好かない相談者・相性が良くない裁判官。こういう身体による直感の意味をエビデンスベースで示すことは不可能なのですが、実務では結構大事な意味があります。弁護士業務は「頭でっかち」では全くやっていけないのです。我々弁護士は創造性を(法律業務という)舞台の上で表現する楽器としてこの身体を使うために、心と身体の完全な調和を目指して、たゆまない努力を続けなければならないのだと私は感じています。