リーガルマインドの起動
尾藤誠司医師はこう述べます(「『医師アタマ』との付き合い方」中公新書ラクレ)。
医師アタマは私も含めた医療に携わる全ての医師が、さらには、おそらく薬剤師や看護師など医療に深く関わる専門職がある程度持っている思考回路です。ただし、医療専門職にある人々の頭の中の全てが医師アタマで出来ているわけではありません。もともと人間として持っている一般的な生活者の感覚や理解も同時に持ち合わせているのです。ただ、医療の教育や現場で培われた医師アタマの思考回路は白衣を着て患者さんに対峙すると自動的に発動します。(中略)医師アタマの起動を自覚している専門職は、自覚していない医療専門職に比べて、患者-医療者間のすれ違いがずいぶん小さくなるのではないかと思います。さらに医療を受ける側もこの医師アタマの存在と特徴について知ることでこのすれ違いはより小さくなるのではないでしょうか。(10頁)
リーガルマインドは法律家である弁護士・検察官・裁判官が(司法書士や書記官など法律に深く関わる専門職を含む)が持っている思考回路です。司法試験と実務修習で培われたリーガルマインドは依頼者に対峙すると自動的に発動します。法律実務を実践するためにリーガルマインドは不可欠のものだからです(発動しない人は法曹実務家になる資格がありません)。しかし、この思考回路が頭の中の思考を支配し過ぎてしまうと依頼者とのコミュニケーション不全を起こす可能性が高くなります。リーガルマインドには日常生活で起動する一般的な生活者の感覚や理解と抵触する契機が内包されているからです。リーガルマインドの起動を自覚している弁護士は(そうでない人よりも)依頼者とのすれ違いが小さくなります。依頼者もリーガルマインドの特徴と発動について知ることで弁護士とのコミュニケーション不全を小さくすることが出来るのです。