5者のコラム 「学者」Vol.70
職業と道楽・他人本位と自己本位
夏目漱石は文明の進歩を「人間活力の発現の経路」であると定義し、これを次の2種類に分類しています(「現代文明の開化」漱石文明論集・岩波文庫)。
1 義務の刺激に反応して活力を節約する趣向(仕事上の義務の束縛を免れて早く自由になりたいという気持ち。分量を少なくして手軽に済ましたいという根性。)
2 道楽の刺激に反応して活力を消耗する趣向(趣味上の好みを追求したい気持ち。自分の自由を追求したい気持ち。自分の活力を消耗したい気分。)
かかる分類を前提に漱石は「日本の文明の進歩(開花)は上記2分類のいずれも外発的な上滑りなものにならざるをえない・滑るまいと思って踏ん張ると神経衰弱になる」ので「神経衰弱にならない程度に内発的に変化してゆくのが良かろう」と講演をまとめています。
弁護士の仕事もこの手法で分析できます。
1 義務の刺激に反応し活力を節約する趣向(弁護士業務を他人のための仕事と考えるもの。他人の意向に合わせて、ある程度は媚びを売り、可能な限りエネルギーを節約することを志向します。)
2 道楽の刺激に反応し活力を消耗する趣向(弁護士業務を自分のための仕事と考えるもの。自分の趣味に合わせて、信条に従い、可能な限りエネルギーを消耗することを志向します。)
弁護士業務を長く続けるためにはいずれか片方に偏ってはいけません。神経衰弱にならない程度に内発的に変化して両者のバランスを上手に取ってゆくことが肝要です。