結果の責任・プロセスの責任
医療過誤法で問題となる「結果」とは適正な医療が行われていても生じた結果ではない。近代法において医師の負う責任は結果に対する責任ではなくベストのプロセスを提供する責任である(中世において医療契約は請負であり結果に対する責任だった・児玉善仁著「病気の誕生・近代医療の起源」平凡社選書15頁参照)。医療過誤法における「結果」とは「人はいつかは死ぬ」といった抽象的な意味での結果ではないし因果関係論はかかる意味での医療行為と結果との関係を議論しているのでもない。医療において患者は疾患を抱えて(放置すれば結果が拡大する状態で)病院を訪れている。他方、医学は万能ではない。よって医師がベストの医療プロセスを提供しても生じる「結果」は法的に許容される。医療過誤法において意味がある因果関係とは当該場面において(特定の日に特定の場所で)生じた個別具体的な悪しき結果(ベストの医療が施されていれば生じなかったであろう結果)と問題のある行為との繋がりである。(法律コラム07/3/19)
弁護過誤において問題となる「結果」とは適正な弁護が行われていても生じたであろう結果ではありません。弁護士が負う責任も「結果に対する責任」ではなく「ベストのプロセスを提供する責任」だからです。依頼者と弁護士の契約関係は請負ではなく委任です。懲戒請求者の中には「弁護士の負う責任は結果に対する責任だ」と勘違いしている人がいますが、そうではありません。勝ち筋の事案は普通にやれば勝ちますし負け筋の事案は普通にやれば負けます(負け筋の事案は「負け方」が問題なのです・できれば穏当な和解が望ましい)。法律は万能ではありません。ベストのプロセスを提供しても生じる結果は依頼者に受け入れてもらうしかありません。もちろん、そのためには「ベストのプロセス」を依頼者に示しておく必要がありましょう。