台本の記憶・台詞の発声
佐野史郎「怪奇俳優の演技手帖」(岩波書店)の記述。
台本をちゃんと読んで台詞をきっちりと覚えてから舞台や撮影の現場に行くときと、そうでないときがあります。連続ドラマなどの場合、台本の出来上がるのが遅れて、直前に、あるいは最悪の時には当日台本を渡わたされたりすることもありますから、そんなときは勉強のしようがありません。残念な話ですが時間に追われるテレビの世界ではよくあることです。だからといってその場で台詞を覚えるのに追われないように努めます。内容を良く把握しないで台詞を覚えて言葉を発しても芝居にはならないからです。(49頁)
私は詳細な尋問事項を作りません。複雑な事件では相当に準備しますが、1問1答式に固めた尋問事項を作ることは嫌いです。理由は主尋問と反対尋問で全く異なります。主尋問は味方側証人や依頼者本人です。多くの場合、裁判所から陳述書を作成するように求められています。陳述書作成は気を遣うもので、証人や依頼者から話を聞き取り・下書きをつくり・何度も見直して・署名押印をいただき提出します。ゆえに、主尋問は陳述書を前提にそのポイントを絞って話してもらうというスタイルになります。引用する書証を漏らさず指摘し、大事な点を聞き逃さないようにします。主役は証人や本人なのでオープンクエスチョンを用いて自発的に話して貰うようにします。主尋問は「答え」が重要なのです。これに対し反対尋問は敵方に対するものです。当日はじめて顔を合わせ、いきなり聴く話もありますから、臨機応変な対応が必要です。台詞を覚えてから行うスタイルでは対処できません。反対尋問の主役は尋問者たる弁護士です。質問自体で相手方の供述に対する疑問点を浮き彫りにしたいのです。反対尋問は「問い」が重要です。クローズドクエスチョンを基本とし臨機応変にコントロールされた言葉を発しないと尋問にはなりません。