5者のコラム 「医者」Vol.89

法的手続の作用と副作用

 深井良祐「なぜ、あなたの薬は効かないのか」(光文社新書)に次の記述があります。

副作用のない薬はこの世に存在しません。薬として作用を表すのであれば必ず何らかの副作用もあります。これは薬の主作用を考えてみれば理解できます。(略)血液を固まりにくくすることで血栓の生成を防止する抗凝固薬はどうでしょうか。抗凝固薬を服用すれば血栓による脳卒中や心筋梗塞を予防することが出来ます。これが主作用です。しかしこの薬には血がなかなか固まらないために出血の危険性が生じるという副作用も伴っています。この副作用のために脳出血などの事態が生じれば命に関わるような事態に至ります。(略)免疫抑制剤は体の免疫機構を押さえることが出来るので移植された臓器は攻撃されにくくなります。ただ「免疫を抑える」ということは、その分だけ感染症にかかりやすくなることも意味します。 簡単に言ってしまえば、これが免疫抑制剤の主作用と副作用です。このように薬の主作用と副作用は表裏一体です。これを理解した上で服用する薬に対して私たちは「できるだけ副作用を回避して薬による有効な作用を得る」ことを考えていくことが重要になります。

副作用が無い法的手続は存在しません。「作用」を実現する場合は何らかの「副作用」があります。特に訴訟は強制力を伴う疑似戦争手続なので副作用として関係者の名誉・財産・感情を害することが多々生じます。法的手続の主作用と副作用は表裏一体です。弁護士はこれを理解した上で副作用を少なくし法的手続による有効な作用を得ることを考えています。話し合いの可能性があるならば交渉の機会を持つ・交渉が無理でも調停を考慮する等を考えます。訴訟を提起する場合でも和解の機会があれば可能な限り検討します。ただし副作用があっても判決を得ることに価値を見いだす依頼者も少なくありません。それゆえ弁護士は依頼者の価値観を理解することが求められていると言えます。

5者

前の記事

人間性の最後の砦
学者

次の記事

経験値のチカラ