■2020年05月13日(Wed) 筑後のうどん
* 本稿は2010年4月14日に「久留米のうどん」としてアップしていたものですが、考察の対象が筑後のうどんであること・取り上げる店舗も久留米に限定せず筑後の全体に広げたいことにもとづき「筑後のうどん」と改題してリニューアルいたしました。

 地元の人はあまり意識していませんが筑後地方には多くの製粉工場が存在します。これは筑後川と矢部川の豊富な水と肥沃な土地によって米と小麦の二毛作が可能であったことを背景としています。筑後地区では早くから小麦が栽培されました。これを粉にするために古くは水車小屋が、近代では製粉工場が発達し、作られた小麦粉をおいしく食べるための麺文化が発達しました。汁に小麦粉を溶いた団子状の具を入れた「だご汁」がよく出されました。これを細く延ばしたものが筑後のうどん(延べだご汁)です。昔、うどんは多くの家庭で作られていました。我が家の食卓でもしばしば「延べだご汁」が出されていました。
 全国的に名高いうどんの本場は讃岐です。「讃岐うどん」と「筑後うどん」の違いは味の優劣と言うよりも文化に根ざしたうどんの位置づけの違いの問題であるようです。讃岐うどんは主食(ご飯の代わり) という位置づけであり、うどんでお腹をいっぱいにするため強靭な腰を持つ麺が好まれました。汁でお腹が膨れないように、麺自体を生醤油・ぶっかけ・ざる・釜揚げ等でいただく食文化が発達しました。うどんは主食的扱いであるため、うどん店は朝早くから開店しており、朝食にうどんを食べて出勤する風景が見受けられます。これに対し筑後平野では美味しい米がたくさん取れたことから、うどんは主食であるご飯を食べる時の「汁物」として食べられてきました。吸い物や味噌汁と同じ位置づけです。暖かいかけ汁で食べるのが一般的です。腰の強いうどんはご飯のおかずとして不適当であることから麺はたんわりとして・柔らかく・粘りがある現在の品質になったと言われています。かかる位置づけの故に、麺自体を少量の薬味でいただく文化はあまり発達しなかったようです。
 私たち筑後人はうどん屋さんに入ると普通に「ごぼう天うどん」を注文しますが、九州外ではあまりメニューに載っていないようです。「丸天うどん」も他の地方では少ないと聞きます。筑後うどん屋さんの特徴に「おかず取り放題」の文化があげられます。入口付近に取り放題のおかずが置かれ自分で好きなだけ取っていくスタイルは筑後独特の文化です。

 筑後うどんの代表的店舗として「久留米荘」(六ツ門町)があげられます。昭和23年の創業です。たんわりとして柔らかく・粘りがあると表現した前述の筑後うどんの特徴を全面的に表しているうどんです。讃岐うどん帝国主義の人は好きになれないと思われます(讃岐的な腰の強さなど全くありません)。濃厚なダシでつくられた汁に柔らかい麺が煮込まれており麺に味がしみついています(いわゆる煮込みうどんです)。昔の「延べだご汁」の感覚です。かかるうどんのあり方には好き嫌いがあると思われますが、私は結構好きなタイプです。事務所から歩ける距離なのでたまに食べに行きます。おすすめは「ごぼう天うどん」です。

 近時、久留米荘は津福のキムラヤパン工場正面に移転しました。


 「立花うどん」(インター近く)も人気店です。昭和56年創業です。店内には多くの色紙が飾られています。この店のおすすめとして「肉うどん」をあげる方が多いようです(昆布の濃厚なスープと甘いお肉の旨味がベストマッチングという評価がネット上で見受けられました)。が、私は甘いうどんが苦手なので、この点は何とも言えません。(写真は「釜揚げうどん」)


 ここは柳川の「立花うどん」から暖簾わけをされたお店です。筑後うどんとしての柔らかさを基本にしつつも独特のコシをもった(地元ではねばりゴシという)美味しいお店です。柳川店は川下りの乗船場から近いので観光に出向かれた際はご賞味あれ。まぜめしも好評です。


 もう1店、「つるや」(八女市・八女学院の近く)を挙げます。昔ながらの筑後うどんの良さを伝えている名店です。あげたての天ぷらが何とも言えず美味です。この店は丼モノも名物で、ブログで絶賛されている方が見受けられます。(写真はごぼう天うどん)


 讃岐うどんとしては「ゆう助うどん」(久留米インター近く)をあげておきます。平成20年創業ですが、既に熱狂的ファンが多数いるようです。ここは注文を受けてから麺をゆで始めます。天ぷらも注文を受けてから揚げ始めます。他の店に比べると結構長く待たされますが、腰の
強いうどんをいただけます。全てが手作業なので1日100杯程度が限界のようです。
 讃岐の麺は冷水で締めた腰の強さが売りなので、私は冷たい麺(ざる・冷やしたぬき・おろし)のほうが良いと感じています(写真はおろしうどん)。


 久留米警察署の近くにある「山忠」も美味しいお店。自宅から近いので良く食べに行きます。取り放題のおかずがとても美味しい(特にきくらげ・切り干し大根・マカロニサラダ)。うどんはごぼう天か冷たい麺をすすめます(写真は天ぷらざる)。丼ものも好評です。


 異色のうどん屋さんとして「こなから」(螢川町)をあげます。平成18年の創業です。自宅から近いのでよく食べに行きます。ここは平麺を手打ちしていますが、メニューの多彩さに驚かされます。おろしうどん・ざるうどん・焼きうどん・パスタ風など、多くの食べ方が楽しめます。夜に酒を飲みながらのスタイルが合うお店です(写真は「ネギ焼きうどん」)。

 夜のメニューが豊富になり、日本酒・ワインなども充実しています。
 近時「こなから」は店舗を改修されました。オシャレ感が増しています。小料理屋さん的な風情のお店になりました。麺は最後の〆という感じです。

 この10年で福岡県内における「うどん人気」は急上昇し、テレビでは「うどんマップ」という特番が組まれるようになったほどです。私は食マニアではないので、あまり深入りすることなく自分が無理しないで回れる範囲をのんびり食べ歩きしたいなと思っています。

* 新型コロナウイルスの影響でバイキングビュッフェ形式の飲食店が苦境を余儀なくされています。この流れの中で筑後の「おかず取り放題の文化」が廃れてしまうことを私は危惧しています。過剰な衛生意識の氾濫により伝統的な食文化が消える事態が生じたら悲しい。