■2019年06月07日(Fri) 偽造された相続登記の是正
 共同相続された不動産について相続人の1人が勝手に自分の単独所有物として登記した場合、書類を偽造をされた当該相続人は登記名義人に対して是正を求める訴訟を行うことが出来ます。近時、原告側で法的議論をする機会がありましたので紹介します。(若干補正)

1 総説(被告主張の要旨と意味)
   被告は「請求の趣旨に『錯誤』が含まれているのに請求原因に錯誤を基礎づける事実が
  主張されていないので認否不能である」と主張する。これは要件事実論を全く理解してい
  ない間違った議論である。以下は申立・主張・立証を分けて論じる。
2 請求の趣旨(申立)
   請求の趣旨は「申立」であり「主張」では無い。訴訟物は所有権移転登記抹消登記手続
  請求権である。真実の所有関係と登記の外形的な齟齬により生じるものである。本件は
  共有物であるから、共有物の保存行為として各人が実体的権利変動の伴わない登記の
  抹消登記請求が出来るのである(民法252条但書)。当初、請求の趣旨は単に「抹消登記
  手続請求をせよ」というものであったが、依頼を予定する司法書士が法務局に問い合わせ
  したところ、登記原因の記載があることが望ましいとされ「錯誤を原因とする」という文言を
  希望されたので付加しているだけである。
3 請求の原因(主張)
   上記訴訟物としての所有権移転登記抹消登記手続請求権は真実の所有関係と外形的
  登記の齟齬によって生じるものである。被告の認否は請求原因として「主張」されている各
  事実について行われれば足りる。主張されている事実は単純明快なものであって認否が
  出来ないような筋合いのものではない。ちなみに「登記保持権限」は抗弁であって請求原
  因では無い。もしも被告がこれらの各登記につき「真実に合致している」との主張をする趣
  旨であるならば被告で遺産分割協議に関する具体的な事実関係を主張立証されたい。
4 基礎づける証拠(立証)
   原告は*作成書面(甲*)を証拠提出している。被告*の元夫である*が作成している
  ものである。本件登記には「登記保持権限がないこと」を*が自認している。
(被告側の「時効取得」主張への反論)
1 占有の性質について
   *の死亡により本件不動産は相続人が共同の占有を開始する(共同占有)。*死亡に
  よって直ちに*(および承継人たる被告ら)のためだけの「単独占有」が当然に開始する
  ものではない。被告らの主張はこの点に於いて最初から端的に間違っている。
2 占有形態の転換について
   共同相続した物件の占有は他者のための占有を含むものであるから時効取得の要件
  となる「自主占有」ではない。共同相続された不動産については民法186条1項の推定は
  働かず、時効取得を主張する者が実質的に「自主占有」が開始されたことの原因事実を
  主張立証することとされている(最判平成8年11月2日参照)。「所有の意思」の有無は行
  為者の内心ではなく、占有を生じさせた客観的な事実関係により生じる(通説・判例)。この
  とき被告がどのように「思っていたか」は他主占有から自主占有への転換を議論する際に
  法的意味を有しない。 本件で他主占有から自主占有への転換を基礎づける客観的かつ
  具体的な事実関係は存在しない。本件に「新権原」(民法185条)は何ら存在しない。
3 遺産分割協議との関連について
   もしも被告に於ける遺産分割協議の主張立証が十分ならば「時効取得」を言う必要は無
  い。被告が「時効取得」を持ち出さざるを得なくなったことは抗弁である登記保持権限(遺
  産分割協議が為された事実)の主張立証が出来ないことを自ら認めるものに等しい。

* 本件訴訟は「被告が原告に対して解決金(遺産額に原告の法定相続分をかけたもの)を
 支払い、原告がその余の請求を放棄する」旨の和解が成立して終了しました。

* 判決に至る場合の主文の書き方については実務上問題があるようです。私は全部抹消
 説に依拠して訴状「請求の趣旨」を書いたのですが、裁判官から登記実務的には一部更正
 説のほうが通説だと指摘を受けました(最新裁判実務体系5「不動産登記訴訟」青林書院
 387頁以下)。今後、同様の事件を受任して訴状を作成する際には御留意ください。