■2018年12月14日(Fri) 改正相続法について
 平成30年に相続に関する改正民法(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)が成立しました。主な内容は@自筆証書遺言の有効要件の見直しA自筆証書遺言保管制度の創設B配偶者居住権の創設C夫婦間での自宅の贈与等を保護する制度の創設D預貯金債権の仮払制度の創設E相続人以外の貢献を考慮する制度創設F遺留分制度の変革です。 近時、某所においてその内容を解説する機会がありましたので資料を掲載します。 

1 自筆証書遺言の有効要件の見直し
(1)現行制度
 自筆証書遺言は、その全文を自署(手書き)する必要があります(民法968条1項)。手書きの必要があるのは遺言本文だけでなく財産目録も全てになります。本文と財産目録の全てを手書きするとなると、書き間違った場合には、決まった要式で訂正する必要があり、これができていないと自筆証書遺言全体が無効となっていました(民法968条2項)。
(2)改正法
 改正法は、自筆証書遺言のうち、財産目録の部分については自署する必要がなく、ワープロで作成してもよいこととされました(改正法968条2項)。財産目録だけでも手書き特有の面倒臭さが減り、記載方法の不備によって無効となる危険も減ることになりました。
2 自筆証書遺言保管制度の創設
(1)現行制度
 自筆証書は自宅で保管されることが多いので紛失・破棄などのおそれがありました。また遺言者が死亡し、自筆証書遺言が発見された場合、裁判所による検認の手続きを経なければならず、手続きの煩雑さから、自筆証書遺言の利用が促進されないという現状がありました。
(2)改正法
 法務局において遺言書を保管する制度が創設されることとなりました。遺言者は自ら作成した自筆証書遺言について、遺言書保管所として指定された(住所地・本籍地・所有不動産所在地を管轄する)法務局に対し当該遺言の保管申請を行うことができることになりました。遺言者死亡後、その「関係相続人等」(相続人・当該遺言書に記載された者など)は保管官に対し「遺言書情報証明書(遺言書保管ファイルに記載された事項を証明するもの)」の交付を請求することができる他、遺言書原本の閲覧を請求することもできます。なお、当該法務局に保管された自筆証書遺言については検認手続を要しないこととされています。
3 配偶者居住権の創設
(1)現行制度
 被相続人の資産に金融資産が乏しく主な資産が自宅不動産である場合、被相続人配偶者とその他の相続人との関係が良好でないと、分割過程において自宅を売却することになり配偶者が自宅から退去を迫られるケースがありました。配偶者が自宅所有権を相続し住み続けることができたとしても、自宅の不動産評価額が高額であれば現金預金など金融資産の取り分が少なくなり、結果として生活が不安定となることも見受けられました。
(2)改正法
 改正法は、被相続人の死後、残された配偶者の生活を安定させるため、配偶者が自宅に住み続けることができる権利を創設。自宅の権利を「所有権」と「配偶者居住権」に分け、配偶者は遺産分割の際に配偶者居住権を選択できることとし、配偶者以外の相続人や第三者が当該不動産の所有権を取得する場合は負担付の所有権を取得することになります。配偶者は自宅不動産に住み続けることができ自宅所有権を取得するよりも金融資産を多く取得することができるようになり、高齢配偶者の生活の安定に資するものになりました。
4 夫婦間での自宅の贈与等を保護する制度の創設
(1)現行制度
 被相続人が、その資産を生前に配偶者に贈与しても、原則として被相続人の死後に遺産として相続するはずのものを先渡しされたものと評価します(特別受益)。被相続人が生前に配偶者に資産を贈与等をしても、それが無かったのと同じような結果になっていました。
(2)改正法
 改正法は、婚姻期間が20年以上の夫婦が配偶者に居住用不動産を遺贈又は贈与した場合、贈与又は遺贈をした一方配偶者の死亡により相続人間で遺産分割をする際、他方配偶者が遺贈又は贈与を受けた居住用不動産については「遺産とみなさない」という意思表示があったものと推定し分割協議対象から除外することとしました。配偶者が住宅を確保しやすくなるので住宅以外の遺産について取り分を得やすくなり、生活の安定につながります。
5 預貯金債権の仮払制度の創設
(1)現行制度
 かつて相続された預貯金債権は遺産分割の対象とならないと解され、共同相続人は各々の法定相続分を銀行に対し払戻請求ができました。平成28年12月19日、最高裁は従来の判例を変更し、預貯金債権が相続開始と同時に当然分割されることはなく、遺産分割対象になると判断しました。この結果、遺産分割が終わるまで、共同相続人が持ち分に応じ単独で銀行に払戻を請求することができなくなりました。遺産分割協議が終わる迄に生活費や葬儀費用など被相続人の預貯金債権の払い戻しが必要となる場合があっても、持ち分に応じた単独の払い戻し請求ができないことから、合意が得られない場合に不都合でした。
(2)改正法
 預貯金債権について仮払の必要性があると認められる場合は家庭裁判所の判断で預貯金債権の一部について単独で払戻が認められるようになりました(改正民法909条の2)。相続人の生活費や葬儀費用を賄うために相続人が遺産である預貯金債権について一定額については単独で払い戻すことも可能となり相続人の生活の安定に資することになりました。
6 相続人以外の者の貢献を考慮する制度の創設
(1)現行制度
 相続人以外の者は無償介護等で尽くしても相続財産を取得することができません。例えば長男の嫁が義父の介護を尽くした場合、義父が死亡した時の相続人が義母と長男と次男だったとして、義母と長男との関係が良好であれば長男の相続を通してその恩恵を受けることができます。しかし既に義母も長男も死亡していた場合、相続人は次男のみとなるので全ての遺産が次男に相続され、結果、長男の嫁は何らの恩恵も受けられません。
(2)改正法
 改正法では、相続人以外の者の貢献を考慮するために、そのような貢献をした者を「特別寄与者」として、その者は、相続開始後、相続人に対して特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができるようにしました。
7 遺留分制度の変革
(1)現行制度
 判例(最高裁昭和35年7月19日など)は遺留分減殺請求権の行使が物権的な効力を生じるものと解してきました。そのために内容証明を送ると直ちに物の所有権は共有状態となり、その解消を巡り多大なるエネルギーが必要で、事業承継に当たっての障害となっていました。
(2)改正法
 改正法は遺留分減殺請求権の効果を当該当事者間の債権的なものと構成しました。遺留分権利者は、受遺者・受贈者に対して侵害された遺留分の価額に相当する金銭の支払を請求することが出来るにとどまることになりました。しかも、かかる請求を受けた受遺者・受贈者は裁判所に対して相当の期限を付与することを請求することが出来るようになりました。遺留分制度に関するこの改正案の内容は審議の過程で何度も変遷したようですが、結果としては今回の改正中(現行実務と比べて)最も大きな変更を受けることになりました。

* FB友達である岡口裁判官(同期の有名人)情報で平成30年11月21日に同日付政令を 確認することが出来ました。施行日は平成31年7月1日です。ただし配偶者居住権の規定は 平成32年4月1日・自筆証書遺言保管制度の規定は平成32年7月10日です。

* 民法909条の2で引出せる額の上限が150万円と決まったそうです(民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令・平成30年法務省令29号)。