■2020年02月12日(Wed) 民法改正による典型契約の変化
 民法(財産法)は明治29年に制定されて以降、部分的手直しはあったものの抜本的改正は行われませんでした。条文と社会変化との「すきま」は判例が埋めてきました。その結果として六法全書を見ても規範内容を知ることができませんでした。これを是正するため2020年4月1日から改正法が施行されます。このたび典型契約に関する改正ポイントを説明する機会があったので紹介します。(*なお実務的に使わない契約類型の説明は省略。)
 参考文献 商事法務編「民法(債権関係)改正法案新旧対照条文」(商事法務)、第一東京弁護士会編「改正債権法の逐条解説」(新日本法規)
 
一 財産権の移転を目的とする契約
 1 贈与
   当事者の一方が無償で財産を相手に与える契約。改正ポイントは次のとおり。
   従来、書面によらない贈与は「撤回できる」と規定されていましたが、民法の他の文言と
  統一して「解除できる」との規定に変わりました。目的物の引渡義務も新設されています。
 2 売買
   当事者の一方が有償で財産を相手方に移転する契約。改正ポイントは次のとおり。
 @ 瑕疵担保責任がなくなり契約不適合責任が新設されました。これは債務不履行責任の
  一種です。契約不適合責任に基づいて@損害賠償請求、A.契約解除、B.追完請求(目
  的物の修補・代替物引渡し・不足分の引渡し)、C.代金減額請求が可能となりました。
  ただし@を請求するためは債務者の帰責性が必要です。他の請求は不要です。
 A 買戻しに関する金額は従前「買主が支払った金額及び契約の費用」とされており、使い
  勝手の悪い規定とされていました。改正法は買戻金額を「当事者間で別段の合意をした
  場合はその合意により定めた金額による」ことが出来るようにしました。
* 実務の売買契約の内容は商取引法を確認しないと理解できません。「商人間の売買」は
 国内売買と国際売買を分けて論じる必要がありますし「消費者売買」は消費者契約法・販売
 信用取引法・特定商取引法を意識する必要があります。江頭憲治郎「商取引法」(弘文堂・
 法律学講座双書)が良く出来ているので興味がある方は参照願います。
二 物の利用を目的とする契約
 1 消費貸借
   当事者の一方が相手方から何かを借り、これを消費して別の同等のもので返す契約。
  お金の貸し借りが典型例(ほぼ全て)。改正のポイントは次のとおり。
   旧法では「金銭その他の物を受け取ることによって」効力が生じる要物契約でしたが、
  実務においては当事者間の合意のみで消費貸借契約を締結することが多く、裁判所も
  効力を認めていました(諾成的消費貸借契約)。改正法は諾成的消費貸借契約を是認し
  ましたが契約成立のためには「書面で」契約を締結する必要があると規定しています。
* 貸金債権は(モノの所有権と並び)最も重要な法的権利です。これを中核に「金融法」の
 体系が形成されています。民法において人的担保と物的担保が細かく規定されています。
 今回の債権法総論の改正も主に貸金債権を意識して行われています。
 2 使用貸借
   当事者の一方が相手方から無償でモノを借り、それを使用した後に相手に返す契約。
  借主は使用貸借が終了した時に原状回復義務を負い、その内容として通常損耗や経年
  変化についても全て回復する必要があります。貸主負担で通常損耗や経年変化について
  原状回復する場合は個々の使用貸借契約書において明記することが必要になります。
 3 賃貸借
   当事者の一方が相手方に賃料を払ってモノを借りる契約。改正ポイントは次のとおり。
 @ 賃貸借の存続期間の上限が20年から50年に引き上げられました。
 A 裁判例等の解釈で運用されていた敷金に関する基本事項が明文化されました。
  @ 敷金の発生時期:賃貸借が終了し賃貸物が明け渡されたとき。
  A 敷金返還債務の承継の有無:賃借権が譲渡された場合に敷金交付者の権利義務
   関係は特段の事情がない限り、新賃借人に承継されない。
  B 敷金の充当:敷金返還債務は賃借物の明渡完了までに生じた一切の被担保債権を
   控除してもなお残額があることを条件として、その残額について発生する。
  C 賃借人の原状回復義務には「通常損耗と経年劣化が含まれない」ことを明文化。
  D 賃借権が対抗要件を備えている場合、不動産の賃借人は、不動産の占有を妨害して
   いる第三者に対して賃借権に基づく妨害排除請求ができることを明文化。
  E 賃借権が対抗要件を備えている場合、不動産を賃貸していた者が当該不動産を第三
   者に譲渡した場合、賃貸人たる地位も譲受人(買主)に当然に移転することになる。かか
   る地位の移転に伴い費用償還債務と敷金返還債務も移転することになることを明記。
* 不動産の契約現場における賃貸借契約は「借地借家法」で詳細な規律を受けているので
  実務の現場ではその内容を正確に確認する必要があります。
三 労務の利用を目的とする契約
 1 雇用
   当事者の一方が働き、相手方がその労働に対して報酬を支払う契約。
 @ 雇用契約が中途で終了したときは既に行った履行割合に応じた給与請求ができる
  ことが法文において明記されました。極めて重要な改正です。
 A 労働者からの雇用契約の解除の予告期間が3カ月から2週間に短縮されました。
* 実際の労働現場における雇用契約は広義の「労働法」で別途規律を受けているので
  「労働契約法・労働基準法」の内容を確認する必要があります。詳細については最新の
 規範内容が網羅されている菅野和夫「労働法」(弘文堂・法律学講座双書)がお勧めです。
 2 請負
   当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手がその仕事の結果に対し報
  酬を支払う契約。改正のポイントは次のとおり。
 @ 注文者に帰責性がない事由によって仕事が完成できなくなった場合、仕事完成前に
  解除された等の事情がある場合に仕事を完成しなくても報酬を請求できる。
 A 請負人の「瑕疵担保」責任はなくなり、売買契約の規定が準用され「契約不適合」責
  任を負う。担保責任の内容は@修補等の履行の追完、A損害賠償請求、B契約の解除、
  C代金減額請求です。責任追及をするには契約不適合を知って1年以内に通知する。
 * 建築工事請負契約に関しては「契約約款」(四会約款など)との関連を意識すべきです。
  契約不適合との関係では「建築基準法・住宅品質確保促進法など」を意識します。
 3 委任
   当事者の一方が相手方に法律行為をすることを委託し相手方がこれを承諾する契約。
  弁護士への依頼などが典型例。改正ポイントは次のとおり。
   委任者に帰責性のない事由により委任事務を履行できなくなった場合、委任が履行中
  途で終了した場合に、既にした履行の割合に応じた報酬を請求できるようになりました。

* 施行当初は若干の混乱が生じるかもしれません。早めに慣れていきましょう。