■2018年08月17日(Fri) 住民監査請求の要件審査
 住民監査請求は、違法または不当な財務会計上の行為等が為された場合に、住民が監査委員に対して監査を求め、当該行為を防止・是正し、もしくは当該怠る事実を改め、または当該行為もしくは怠る事実によって当該地方公共団体の被った損害を補填するため必要な措置を講ずべきことを請求するものです(地方自治法242条)。住民訴訟を提起しようとする者は訴え提起前に監査委員に対して監査請求をしなければなりません(前置主義)。
 今般、この「住民監査請求の要件審査」に関し松井淑子弁護士(大阪市監査委員)の講演を拝聴する機会がありましたので、備忘録として取り纏めておきます。

1 監査委員による監査 
  監査対象たる「違法または不当な財務会計上の行為」には「不当な」が含まれている。裁判官に民主的な基礎はないから不当性の判断権限はない(違法性のみ)。これに対し監査委員の選任には議会の同意が必要であり、民主的な基礎がある。監査委員は行政庁内部の自主的判断として積極的な役割を担っていくことを期待されているので「不当性」も判断できる。「必要な措置を講ずべきこと」は裁判官には無い監査委員の権限である。監査委員制度が行政庁内部の仕組みであり、広い裁量権を有することを前提としている。
2 対象の特定性
  請求の対象はある財務会計上の行為を他から区別できるように個別具体的に特定しなければならない(最判平成2年6月5日・大阪府水道部事件)。本判決は住民に厳密な特定性を要求し、当該請求は特定性に欠けるとして不適法とした。しかし、この判決には少数意見が付されていた(園部逸夫裁判官)。住民監査請求は住民が監査委員の職権発動を促すことを求めているに過ぎないのだから住民監査請求に対象の特定は不要であり、監査委員は対象が特定されていなくても、何らかの監査を行うべきであって、対象の特定を欠くことを理由として却下することは許されない、というものである(いわゆる「端緒」説)。
 これを受け最高裁は平成16年11月25日で上記判示をゆるめ、監査請求は対象とする当該行為等を、他の事項から区別し特定して認識できるように、これを個別具体的に適示することを要すると前提しつつ、監査請求の対象が当該行為等を監査委員が認識することが出来る程度に適示されていれば足りる、と判示した(最判平成18年4月25日同旨)。
3 ヘイトスピーチ条例の違憲性を理由とした監査請求の可否
  以上のとおり住民監査請求には不当性が含まれているし、その対象も厳密な特定を要求するものではないが本件請求は242条の要件を満たさないものと判断せざるを得ない。その理由は以下のとおりである(以下、平成29年8月18日大阪市HPより引用)。
  請求人は表現の自由の侵害の見地から当該条例そのものが違憲無効と主張するのみで財務会計上の行為等の違法性の根拠となる財務会計法規上の義務違反を適示するものとは認められない。仮に本件請求が本件財務会計上の行為に先行するものとして当該条例の違憲無効の判断を監査委員に求めるものであったとしても、条例そのものの違法性(本件請求では違憲無効か否か)は基本的に住民監査請求の対象ではないと解され、監査委員は財務経理的見地から条例自体の違法性についても監査できると解されているが、本件請求は当該条例について財務経理的見地からの違法性を適示するものとは認められない。これらのことから本件請求の内容は住民監査請求の対象になるとは言えない。

* 住民監査請求とは何か?その制度趣旨と判断(要件審査)の限界を、松井先生に明瞭に御説明いただき、住民監査請求に対する理解を深めることが出来ました。
* 参考文献・定塚誠「行政関係訴訟の実務」(商事法務)第28項(谷口豊)