■2019年04月12日(Fri) 自治体の内部統制と監査
 先日、馬場伸一様(某市元監査事務局)の講演を拝聴しました。地方自治体の内部統制が叫ばれる歴史的背景(総論)の解説が素晴らしかったので、その骨子を掲載します。

第1 理論的背景(経済学的分析)
 1 ミルトン・フリードマンの分析:「選択の自由」
                自分のため     他人のため   (節約への意思)
     自分の金      「普通の買い物」   「贈 与」      強 い
     他人の金      「腐敗事象」      「税 金」      弱 い
   (価値を得る意識)     強 い        弱 い  
    政府機関は「他人のお金」を「他人のため」に使うので節約したり効用を最大化しようと
  する動機付けが非常に弱い。自分の金を自分のために使うのであればそういう使い方を
  するか?という観点が弱くなる。会社のように「効率的」にならない。
 2 フリードマンへの反論
   会社だって最初から「効率的」だったわけではない(アダム・スミス「国富論3」(岩波文庫
  429頁)。当時は監査役も会計士監査も無かった。経営者はやりたい放題。その後に会社
  法や証券取引法が整備され株主と債権者の利益を守る体制が整った。この結果として、
  現在は「会社は本質的に無駄遣いするものだ」と評価されなくなっただけである。
第2 歴史的大転換期にある現在の位置づけ
 1 現在の位置づけ
     既存の仕組や仕事のやり方が「賞味期限切れ」を起こしている。
    始期:20世紀末(特に1989)約30年前
    終期:当分先 2005年以降「人口減少・税収減少社会」へ移行している。
     →行政のような「惰性の強い組織」には辛い時代。
 2 高度成長期のシステム :所得倍増計画(昭和35・1960)
  @ 「貧富の格差」が戦前社会を不安定にし無謀な戦争へ向かったことを反省。 
      →「所得の平準化」(直接税中心・累進課税による分配の公平を重視)。
  A 株主に利益分配せず従業員に利益分配する「日本的経営」の考案。
  B 経済成長の果実が地価の上昇に反映され「土地成金」が増加した。
  C 条件不利地には公共事業を通して再分配する「土建国家」の成立。
 3 政府が楽勝だった時代と特徴
  @ 「経済成長・人口増・税収増」が両立し得た奇跡的な成功。
  A 「貧困の解消」により社会問題の多くが(相対的に)減少した。
  B 「利益分配型政治」の完成→「中央との太いパイプ」が政治資源になった。
  C 「政治と行政の腐敗」に対して国民も比較的に寛容であった。
  D 「冷戦期」で外交や防衛も思考停止で良かった(アメリカ任せ)。
 4 高度成長の帰結(副作用)
  @ 国民に「政治とは不潔なもの」という見方が蔓延した。
  A 官僚自身の「規律」も緩んでいた(官官接待が当たり前の時代)。
  B 地方の「陳情合戦」(中央官庁の事務室や廊下における日常的な風景)。
第3 「失われた20年」の歴史を振り返る
 1 役所のスキャンダル(大炎上)の歴史
   カラ主張・接待汚職(大蔵省日銀)・外務省機密費流用・農水省偽装米事件・耐震偽装
   夕張市財政破綻・社会保険庁(消えた年金)・会計検査院の摘発・政権交代(事業仕分)
   原発処理(やらせメール)・財務省の公文書改ざん・厚労省の勤労統計不正など
 2 公務員規律ルールの空洞化
     組織の病理そのもの:法令遵守の姿勢(コンプライアンス)が崩壊していた。
 3 転換点@大事件の連続(平成7年・1995)
     阪神淡路大震災(1月17日)・地下鉄サリン事件(3月20日)
 4 転換点A市民目線の出現(平成7年・1995)
     市民オンブズマン活動が活発化(公金の不正支出が暴露)
      →カラ出張の手口が明らかになる。
 5 転換点B大蔵日銀接待汚職事件(平成10年・1998)
     大蔵省金融検査部検査官他7名逮捕。自殺者が3名。
     →大蔵大臣・日銀総裁・事務次官が多数辞職に追い込まれる。
     →「ノーパンしゃぶしゃぶ」が流行語になる。
       背景:護送船団方式=見返りがない(職務権限が無い)と「収賄」にならない。
         1996住専処理・1997アジア通貨危機・山一証券と拓銀が破綻
         1998日本長期信用銀行が破綻 →「公的資金投入」への国民の憤慨。
第4 公務員規律改革の内容
 1 国家公務員倫理法(2000)
      官官接待の禁止。地方公務員についても各地で倫理条例が制定された。
 2 情報公開法(2001)
      地方自治体に於ける情報公開の進展。いわゆる「口利き」を防止する意義。
 3 公益通報者保護法(2006)
      腐敗を防止するための手段として期待された。
第5 始まった「普通の国」
 1 人口減少社会への対応
      第31地方制度調査会(2016)→2019年地方自治法改正。
 2 夕張市巨額粉飾事件
      財政再建団体申請を表明(2006)→マーケットを震撼させた。
第6 内部統制の意義
 1 アメリカ「エンロン事件」と「SOX法」
      5大会計事務所の1つであるアーサーアンダーセンが解散に追い込まれた。
        →「上場企業改革と投資者保護法」(通称SOX法2002)
 2 日本「西武鉄道事件・カネボウ事件」
        →日本版SOX法(2006)
 3 会計基準の変更
     金融商品取引法施行(2008)と改正地方自治法施行(2020)
第7 顕在化する諸課題への対応
   「自治体戦略2040構想研究会・第2次報告書」(2018年7月5日)
   @ 若者を吸収しながら老いてゆく「東京圏」と支え手を失う「地方圏」。
   A 従来の「標準的な人生設計」の消滅による教育機能不全への対応。
   B 今後「スポンジ化する都市」と「朽ち果てるインフラ」をどうする?

* 各論部分は事情により割愛します。
* 馬場様は「歴史オタク」を自認されています。講演後に雑談をさせていただいたのですが
 歴史オタク同士で極めて共感するところがありました(笑)。