■2019年11月15日(Fri) 学者 132
 福澤一吉「議論のルール」(NHKブックス)の骨子。議論を職業とする者のマナーですね。
1 事前の申し合わせ
 A 発言について
   @1つの文で1つの考えを表現する。 A述語を完結させる。
   A文と文との接続関係を意識する。  C〔議事録をとるために〕書くように話す。
 B 質問について
   @自分の質問が実態調査型か仮説検証型かを知る。 A質問と主張を同時にしない。
   B相手が自分の質問に答えているか確認する。 C質問への答えを自分で評価する。
2 第1ラウンド
 A 最初の発言の分析
   @主張と根拠をペアにする。 A議論において1度に提示する主張は1つに限る。
 B 相手の発言の分析
   @相手の発言について返答する。 A自分の意見と相手の意見との関係を明示する。
3 争点の整理
 A 議論の対立軸を見極める
   @議論の鳥瞰図をつかみ局所的反応をしない。 A議論の論点を絞り込む。
   B人によって使われ方が異なっている言葉は内容を事前にチェックする。
 B 以降の議論のコントロール
   @議論に関係ないことを言わない。    A論点のシフトに注意する。
   B論理的にリンクするところに注目する。 C論理性が欠如した話し合いを補修する。 
■2019年11月11日(Mon) 医者 132
 鳥集徹「医学部」(文春新書)に以下の記述があります。
 AIの能力が人間に追いつき加速度的に追い越していく時点を「シンギュラリテイ」(技術的特異点)と呼び、2045年か早ければ2030年頃には到達すると予測されている。もちろん医学医療界にもそのときは訪れるだろう。そのときにはこうした診断分野だけではなく難病の治療法の発見や画期的な新薬の開発、その効果判定もAIが行うと考えられている。さらに我々がまだ知り得ていない生命の神秘をAIが解き明かしてしまう可能性すら示唆されている。そうなれば医師の仕事はかなりの部分がAIに取って代わられるだろう。(139頁)
 弁護士業界の「シンギュラリテイ」到達が何時か?これを書いている2019年3月の時点で宣言は為されていません。が、ネット上で「法律問題の情報を与えて答えを導かせたところ、弁護士より早く正確に答えを出した」との記事を拝見しました。AIはブレークスルーが起こると瞬時に技術的知見が拡がるので、2045年などという生優しいものではなく、2030年頃、弁護士界も「シンギュラリテイに到達した」と宣言されるかもしれません。まず合理性が貫徹される企業法務は劇的に様変わりするでしょう。都市における顧問弁護士需要が一気に縮小する可能性は否定できません。交通事故など過去の膨大なデータが蓄積されている分野も速やかにAI化される可能性があります。相続の分野も遺産内容と親族関係を正確に入力しさえすれば(数字上は)直ぐに最適解が導かれるようになるのかもしれません。
 そのときに弁護士はどうするのか?現在、57歳の私は2030年の時点で68歳です。既に引退しているのかもしれません。が、これから弁護士として生きる若者たちはどうなるのか?AIとの共生こそが未来を生きる若手弁護士たちの課題なのでしょうか。
■2019年11月02日(Sat) 5者 132
 私は役者5(07年2月15日)で「初心忘るべからず」という世阿弥の言葉を引用しました。
「良い役者はロングラン公演でも、その観客にとっては初めての舞台なのだ、と肝に銘じ新鮮な気持ちで舞台に立つという話を聞いたことがある」と記しています。医者104(17年1月25日)では「新しく来たケースに関しては誰もが初心者なのだ」という熊倉医師の言葉を引用しています。「他者としての来談者は面接者が正しいと思っていたことすらも覆す力を持つ」という言葉も引きました。「初心」という言葉は不思議な力を持っているのですね。
 メルロ・ポンテイは「知覚の現象学」序文でこう述べます(法政大学出版局13頁)。
 世界を見届け、それを逆説として把握するためにこそ、かえって世界と我々との馴れ合いを断絶することが是非とも必要なのである。(略)フッサールの未完の手稿の中で「哲学者は永遠の初心者である」とも言われている。哲学者は世人や科学者達が知っていると信ずるものを何にもよらず既知のこととはみなさない。(略)哲学とは、哲学自身の出発点に立ち返って、繰り返しこれを体験し直すことである。哲学の全てはこの端緒を記述することに存する。
 どの業界でも新人は「世界」に放り出され、試行錯誤しながら、やっとのことで1人前になります。「世界に安住する」ことが出来るようになります。確立された自己は「世界」を「当たり前」のものとみなし「出発時点の不安に満ちた私」を忘却してしまいます。メルロ・ポンテイはこれを世界と我々との<馴れ合い>と考え、徹底的に排除します。哲学の難儀な所です。
 弁護士が目前の事案を「初心者」の目線で取り組むこと。言うのは易しいのですが行うのは難いことです。実務に慣れた弁護士は依頼者への恐れ(畏れ)を無くしルーティンワークとして流してゆきます。安定した世界に住めるようになることも重要ですが、不安を抱えていた新人弁護士の頃の「驚き」の感覚を取り戻すことも大切です。 「初心忘るべからず!」